一期一会の手造りビールの味わいに感激、澄川麦酒醸造所&ビアパブ・ひらら
たべる
#おでかけ#お酒#ごはん・食べ物#ショップ
2023.07.31
大手メーカーのビールとは一線を画する味わい深さや多様性で、近年人気のクラフトビール。道内にもいくつかの醸造所が誕生していますが、なかでも特に注目したいとっておきのブルワリーが札幌市南区にあります。ビール愛あふれるオーナーが運営し、パブも併設する隠れ家のような醸造所を訪ねてみました。
ドイツビールの魅力に取りつかれ、クラフトビールづくりの世界へ…
地下鉄南北線澄川駅から徒歩3分ほどの場所に、ビールの醸造所があるだなんて、初めて聞いた時には誰もが驚いてしまうのではないでしょうか。しかもそのビールが飛び切りおいしくて種類も豊富、ビールと相性抜群の料理が味わえるパブまで併設されているだなんて!
澄川麦酒醸造所で最初にビールが造られたのは2018年4月のこと。代表の齋藤泰洋さんに誕生までのいきさつをうかがうと…。
「私はもともと、IT関連の会社員でした。旅行でドイツに行ったときに、ドイツビールの種類の豊富さ、味の多様性に感動して、自分もドイツビールが楽しめる店を開きたいと思ったんです。会社を辞めて、バーを開いたのが2011年。最初はドイツのビールだけを置いていたんですが、ベアレンビール(岩手県)をはじめ、だんだんと国内のブルワリー(醸造所)と付き合いができるようになり、国産クラフトビールの紹介もしたいと思うように。実際にブルワリーを訪ね、どんな人がどんな環境でそのビールを造っているのか、その物語と合わせてお客さんに楽しんでもらうことを常に大切にしてきました」
バーを営み、ブルワー(醸造家)たちと接するうちに「いつかは自分自身でもビールを造りたい!」という思いを持つようになった齋藤さん。あれこれ調べるうちに「ビール工場を造るには最低でも2500万円はかかる」と知って、当初は諦めが先に立っていたそう。
ところがある時、非常に美味しい島根県のビールに出会い、醸造所見学に行ったところ、シンプルな手作り設備であることに衝撃を受けたと話します。
「それが石見(いわみ)麦酒。設備費を聞いたら、2500万の0を一つ取ったより、さらに少なかったんです。しかも当時はブルワーがたった一人。これであんなに美味しいビールが作れるのかと思わず唸りましたね。すかさず『これ、自分もやりたいです!』って叫んだら『いつでもいらっしゃい』と言ってもらえ、弟子入りを決めました」
石見麦酒で修業を積んだ齋藤さんは、醸造所とパブが同居する店舗「ビアパブ・ひらら」を2017年12月に新規オープン。醸造免許を取得して、翌2018年4月に醸造をスタートさせたそうです。
厨房と壁一枚を隔てた裏側にある醸造所を見せていただくと…。
麦芽を麦汁にする作業にはラーメン店で使うのと同じ寸胴鍋を、発酵にはホームセンターで購入した置き型冷蔵庫を使用します。冷蔵庫には農業用ビニールハウスの屋根の開閉に使う温度センサーを取り付け、温度調節を行っているのだとか。お金をかけず、手作りで工夫を凝らしながら、高品質のビールを造り出す姿勢に頭が下がります。
こうして出来上がったビールはタンクへ。これが店の厨房の壁のタップにつながっていて、店では醸造所〝直結〟のフレッシュなビールが楽しめる、というわけです。
ビールと料理の組合せ、スタッフとの会話も楽しみ。毎日でも通いたい!
ビールを造る上での齋藤さんのポリシーは「まったく同じビールを2回以上造ることはしない」。同じ種類のビールでも少しずつ麦芽の種類・扱いを変えたり、果実やスパイスをプラスするなど、醸造開始以来、これまでに約180種類のビールを生み出してきたそうです。麦芽は約9割がドイツ、残りがイギリス産。ホップはドイツやイギリス、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアなどから仕入れます。
「クラフトビールのブルワーって、みんなとてもオープンなんです。積極的に情報発信・交換もするし、聞けばたいていのことは教えてくれ、親身に助けてくれる。もちろん、うちも企業秘密ナシです(笑)」
ちなみに一回の仕込みで造るビールは17リットルタンク4本分。これを澄川のビアパブ・ひららと、2号店であるビアバー・ひらら(狸小路)で分けるため、早ければ3日、長くても2週間ほどでも完売に。
「どのビールがどの程度残っているかは、ブログで発信しているほか、当店公式アプリでもご確認いただけます。だいたい週1度ご来店いただくと、すべてのビールを味わっていただける計算になりますね」
ちなみにオープン以来の全ビール約180種を制覇した〝皆勤賞〟の常連さんも4名いるそう…。
なお、ビールの種類に関係なく、値段はどれもハーフ(250ml)700円、レギュラー(360ml)1000円、オリジナル(450ml)1250円、パイント(570ml)1550円。狸小路店と共通で使えるお得な割引回数券もあります。開店後90分間は〝ハッピーアワー〟となっていて、この時間に回数券を購入すると、ハーフ538円、レギュラー769円、オリジナル961円、パイント1192円に!
▲9月とある日のビールラインナップ。常に8種のビールが用意され、少なくとも6種は自家製、1~2種がゲストビール。2週間後にはほぼすべて別のビールに入れ替わります
また、流行を追いかけることなく、ドイツの伝統にのっとったヴァイツェンに力を入れることも大切にしているそうです。
タイミングによっては、スパイスの工夫で色・味・香りとも「まるでコーラ!」のようなビールやフルーツビールなどの変わりダネも登場。バレンタイン時期にはチョコレート系のビールも好評です。夏には軽快で飲みやすいビール、冬には濃厚でアルコール度数高めのビールが登場するなど「ビールで季節感を楽しむ」こともできるんです。常連客が持ち込んだフルーツを使ったり、リクエストを聞いて新作を考えることもあるとのこと。
ビールとお料理の組合せも楽しみどころ。ピアパブ・ひららでいただけるお料理は、どれもビールによく合う品ばかりです。水を一滴も入れずビールで煮込んだチキンカレーやスペアリブ、小麦粉をビールで溶いてカラッと揚げたビアフリットなど、ビールを使ったお料理も楽しめます。
料理メニューは黒板書き。山椒エールが登場している時には穴子のかば焼き、ハチミツ入りヴァイツェンが登場している時にはハニーマスタードソースの料理、チョコレート系ビールが登場している時にはチョコレート系スイーツなど、その時々で工夫を凝らした楽しい料理が登場することも…。
▲ビールは左から、ヴァイツェン(オリジナル450ml・1250円)、マイルド・エール(レギュラー360ml・1000円)、澄川コーラVer.3(ハーフ250ml・700円)。料理左から、フィッシュ&チップス、ビールで煮込んだチキンカレー、北あかりとハーブソーセージのトマトグラタン
実際に試飲をさせていただきましたが、南ドイツを本場とするヴァイツェンは、バナナのような甘い香りが印象的。フルーティで苦味が少なく、のど越しよく楽しめます。マイルドエールは麦芽の甘みを感じさせる穏やかな風味で「ロンドンのパブで好まれるのは、こんなビールなんですよ」という齋藤さんの説明に、いっそう味わいが深まります。澄川コーラは、味も香りもまるでコーラ! なんとも不思議なおいしさです。
齋藤さんをはじめスタッフの皆さんはフレンドリーで、初めてのお客さんにも積極的に話しかけてくれ、一人で訪れても安心。ほかのお客さんと仲良くなれたり、楽しい時間が過ごせます。
大手メーカーのビールとはひと味もふた味も異なる、ビールの世界の深さ、楽しみ方の多様性を教えてくれる澄川麦酒醸造所&ビアパブ・ひらら。お一人でもグループでも気軽に訪れて、その魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
■澄川麦酒醸造所&ビアパブ・ひらら
札幌市南区澄川4条3丁目4-6
TEL. 011-807-4565
営業時間/WEBサイトをご確認ください
定休日/月曜・火曜日 ほか不定休あり
※ビアバー・ひらら:札幌市中央区南3条西5丁目三条美松ビル3階